「ハンドルは低けりゃ低いほどよろしい。」
という極端な時代がありましたが今はどっちでもいいよ、という感じらしいです。
はっきり言いますが、ハンドルは低すぎるといいことないのです。
意外とその辺の使い勝手について述べているサイトが少ないのでワタクシが書きます。
当記事の目次
レーシングマシンがルーツなのは言うまでもない
ライダーにももちろん空気抵抗があるので伏せた状態で空気抵抗を減らし、少しでもスピードを上げるように作られています。
そのため、レーシングマシンのハンドルは低く、ライダーはタンクを抱える様なポジションをとることになります。
低いハンドルと言えばレーシングマシン。
それを模して改造されたバイクが流行りました。
カフェレーサーなんてのもそのジャンルですな。
かっこいいけど乗りづらそうなことこの上ない。
昔は皆速く走りたかったのです。
とりあえず、
ハンドルを低くすることがカッコいいこととされてたのですよ。
セパハン、バックステップ、集合管
これが80年代中旬くらいまでのバイク乗りの三種の神器でした。
そんな訳で皆競うように低いハンドルに変更してたものです。
セパレートハンドル
それまでバイクのハンドルというのは一本のパイプを曲げて作られるのが一般的でした。
パイプを曲げられる範囲でハンドルを低くすることは出来ましたがトップブリッジにパイプハンドルを固定する都合上、限界はあります。
70年代終わりごろ、
スポーツバイクにハンドルを左右に分割(セパレート)して、フロントフォークに片側ずつクランプするハンドルを採用し始めます。
※たぶん、CB750Fとかが最初なハズ。詳しくは知らん。
CB-Fって今見てもすごくカッコいいよね。
今見ると全然感じないのですが 当時のライダーには「真ん中にパイプハンドルのクランプがないのが素晴らしくレーシーに見えた。」ようなのです。
公道用バイクのハンドルの低さの歴史はセパハンとともにあるのですよ。
ワタクシはセパハンが欲しかったけれど貧乏なので、
バイクを買い換えることも改造することもできずにパイプアップハンドルのままのRZ250でツーリングしまくっていました。
今では考えられませんが80年代後半はパイプハンドル愛好者は絶対的に少数派だったのです。
駆け出しのレプリカは意外とハンドル高い
そして過激なモデルは次第にハンドルは低くなっていくのです。
初期のメーカー純正セパハンは結構高さがあって、割とツーリングにも行けるマシなポジションでした。
トップブリッジの上でフォークにクランプしてたりして、そこからさらに上方向に延びてハンドルになる感じです。
初期のRG-γのセパハンとかパイプハンドルのRZ-Rと比べても高さはそれほど下がってないです。
街では更なる カッコよさというかレーサーっぽさに近づけるために ハンドルの低さを求めるライダーが多かったのです。
※改造用のセパハン(トマゼリとか)が商品として普通に流通していました。
低いハンドルに改造されたバイクはすんごく頭悪い作りをしてるのでたまに画像を見ると笑います。
色んな理論やメカニズムを無視して格好だけ真似したもんだから、たぶん速くは走れなかったんだろうと思います。
※ワタクシの学生時代にもいましたよ。ヘルメットのシールドにフロントフォークが当たって傷入ってるM君という奴が(笑)
セパハン化したものの、パイプハンドルのハンドルポストが残ったままというバイクも多かったのです。
低いハンドルでのツーリングは修行の様相を呈します。
はっきり言えば「拷問。」に近いライディングポジションを取り続けなければならず、
疲労感は純正ハンドルとは比べ物にならないくらいだったハズ。
ライダーがみんな若かったからできたことでしょうなぁ。
どうやら昔からバイク乗りは頭がよくない人種なようです。
次第に、レプリカブームが過熱するに従い、純正でもハンドルの低さはどんどんレーサーそのものになっていきます。
セパハンはトップブリッジの下でフォークにクランプする車種が増え始めます。
こうして一気にハンドルの低さが加速していきます。
シートの低さと相まって、今まで一番ハンドル低いと思ったのがこのバイク。
こんなの市販していいんか?と思ったものです。
最終期のFZR400RRなんてもうタンク抱える感じになります。
※カッコは良いんですが1時間以内に腰に来るレベルのライディングポジションです。
こうなると、
純正ハンドルでも修行の様相になってきます。
※しかも出力特性は高回転に振ってあるので極低速域の使い勝手は最悪。足をつかないとUターンできない人が多数。
そうまでしてレーサーっぽいバイクに乗りたかったのか?と言われれば??ですが、時代はみんな同じ方向を見てたのです。
低いハンドルは実用面で使いにくい
ハンドルが低いだけで結構いろんな制約があります。
ハンドルが低いということは、ライダーが何をするにも屈み気味になるわけですよ。
何をするにも不便です。
サーキットを走るだけならまだしも、公道で普段使いするには何かと不便なのです。
それでも格好良さを優先しちゃうのがライダーという あんまり頭の良くない 生き物なのですが。
このハンドルでさえ、久々に乗ると「セパハンは低いな。」と思うワタクシです。
取り回しが大変
つまり、公道で普通に行う取回しは大変だってことです。
ハンドルが低いバイクはバイクを押すときに力を入れるポイントが低くなります。
そうなると力を入れにくいんですよ。
腰で押す、といえば聞こえはいいですがバイクを腰で押すのは動き出した後でして。
完全停止状態からバイクを人力で押す場合、上体の力を使える適度に高いハンドルのバイクの方が絶対扱いやすいです。
※やってみりゃわかりますよ。
しかも、
ハンドルが低いとバイクを押し引きする際に頭の位置が下がるため、視線が低くなります。
頭が下がって上目使いで前見てバイクを押すのです。
※適度な高さのハンドルだと視線を遠くにおけるので楽で安心感がありますよ。
バックする際はさらに大変です。
腕が伸び切るので細かい操作がしにくいのですな。
さらに、
ハンドルが低いということはブレーキレバーの位置も低いのですよ。
ちょっとした下り坂で押し引きする場合、
勢いが付いちゃってフロントブレーキをかっつりかけて転ばす、なんてのはツーリング先でよく見る光景でした。
※前かがみでの押し引き&手首の角度的に微妙なコントロールはしずらいので。
さらにさらに、
低いハンドルでリアに大荷物を積んでる場合、
特に荷物積んだままバックさせるような取回しは慣れが必要ですし、ちょっとした勾配でも大変ですよ。
※これもやってみりゃわかります。
よほど軽量なバイクならまだしも、
重量のあるバイクほど低いハンドルのバイクは取り回しがしづらいです。
※軽いバイクなら、サイドスタンドを軸にして一気に方向転換という荒業もあるにはある。 失敗すると悲惨だけど。
おまけに、
低いハンドルは物理的にハンドルのキレ角を確保できません。
タンクに当たるからです。
ハンドルキレ角が少ないと、同じ方向転換でも押引き&切り返し作業が増えます。
これも意外と大変です。
というわけで、
頻繁に押し引きという取り回しが発生するツーリングや街乗りで低いハンドルのバイクは使い勝手が良くないのでした。
ちなみに・・
低いハンドルのオフ車が無いように低いハンドルは未舗装路には向きません。
未舗装路ではハンドルにしがみついて、前輪に荷重をかけすぎるとコケるからです。
低いハンドルのバイクで、工事中の未舗装路ゾーンに入ると急に大人しくなる人がいますがやっぱり怖いんでしょうねえ。
セパハンではこうはいきません。
セパレートハンドルしか乗ったことのない人は、オフ車に乗ってみるといいですよ。
目からうろことはこのことで、無理してたいろんなことが見えてきます。
オフ車はオンロード車に比べて万能度合いが高いです。
ロングツアラーにオフ車乗りが多いのも頷けますよ。
※とにかく楽です。
長時間走行が辛い
一見、空気抵抗が少ないので楽そうな高速道路の走行でも疲れます。
低いハンドルのバイクというのは、
走行中の多くの時間においてライダーの上半身を両腕を突っ張って支えることになるのですよ。
というわけで、
低いハンドルのバイクに両腕を伸ばして首は上向いた状態で乗ってるライダーが多数いました。
多分今でも低いハンドルのバイクに乗ってる人はそうなってるハズです。
※腹筋背筋で支えりゃいい!という人は勝手にやってなさい。腕の突っ張りに頼らず1時間も走れたら大したものです。
これが見た目が非常にダサい。
なにより、
に負担がかかり続け、ものすごい疲れます。
あと常に上目遣いっぽくしてるので目が疲れます。
※血行が悪くなって頭痛を起こすライダーは当時から多かったです。
近所の峠の往復くらいの短時間ならまだしも、何日もかけて旅するロングツーリングでは・・疲労の蓄積は半端ないです。
※アップハンドルのバイクで同じ行程を走ると「こんなに楽なのか?」と思うハズです。
「低いハンドルのバイクは空気抵抗が少ないから高速道路は良いんじゃね?」
と思うかもしれません。
実は、これもまた結構きついのです。
確かに低い体勢になれば空気抵抗は減ります。
カウルと組み合わせればそれなりに楽に走れるはずです。
が。
高速道路だって巡行時には楽な姿勢を取りたいに決まっています。
低いハンドルのバイクでは多くの時間は両腕で上半身を支えてるもんですよ。
高速走行中とはいえ、常にフルに伏せてるわけではないのです。
上半身を常に腹筋背筋で支えられればいいのでしょうが、それはそれで疲れそうです。
結局、低いハンドルのバイクは適当な高さのハンドルのバイクに比べると長時間のライディングには向かないのです。
若くて元気なうちは良いんですがね。
ちなみに・・
古いバイクでは例外的にGSX1100Sのセパレートハンドルは低いです。
タンクが長いので余計低く感じます。
※ハンドルだけ低くてすんごい乗りにくいですが。
もちろん両腕を突っ張って上体を支えるライディングポジションを強いられます。
体格がいい デブの AちゃんというGSX1100S乗りがいました。
刀が大好きな彼は純正の低いセパハンで何万キロも乗ってたのですが、
「純正のハンドルが彼に体重を長時間掛けられすぎて少し曲がる。」
という冗談のような本当の話を知っています。
それくらいバイクの低いハンドルには荷重がかかってるんですよ。
ハンドルに体重掛け続けてたらステアリングが自由に動かないと思うのでスポーツライディングすら辛いと思うんですが。
ま、いいや。
ワタクシじゃないし。
下りが怖い
視点が低いと遠くまで見えません。
遠くまで見えないとコーナーリングが楽しくない。
これ、峠走行時には結構に不利です。
そして、
低いハンドルは下り勾配だとつんのめりそうな感覚が常に付きまとうので怖いんですよ。
公道では何がおこるかわかりません。
危険を早めに感知するためには遠くを見てできるだけ早いタイミングで察知する必要があります。
そのためには視点が高い方が絶対的に有利です。
コーナーリングは視点を高く遠くまで見たほうが安定しますし、峠レベルならコーナーは楽しく走れます。
低いハンドルのバイクのライディングポジションは必然的に頭の位置が下がるので視点が低いんですよ。
「アスファルトに近い。」と言えばカッコいいかもしれませんが低く限定された視界は心理的な恐怖をあおります。
※視界が狭いとスピード感が高く感じますよ。
また、
ハンドルが低いとポジション的に前輪に過重がかかるような態勢になるので下り坂ではリア過重のコントロールがしにくいです。
フロントブレーキで減速するとさらにフロント荷重になり、車体は起き上がろうとします。
さらに、
低いハンドルに腕を伸ばして体重掛けていますのでセルフステアリングを阻害します。
ということは、
「低いハンドルはちゃんと乗れないと曲がりにくい。」
んですよ。
そして何より、
前輪に過重をかけたまま、下り坂でフロントブレーキをかけるのは慣れないとつんのめりそうです怖いものです。
※バイクで下りの峠が苦手な人は大抵コレが原因です。
バイクで下りを走る場合、
というのが基本ですがよほど手練れにならないと難しかったりします。
最初から低いハンドルのバイクしか知らないと、このテクニックを身に着けるまでに時間がかかるのです。
恐怖を度胸で乗り越えるのはバイク乗りとして最もやってはいけないことなのですが、昔はそんなのがたくさん居たのです。
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低いハンドルはワイヤーが切れやすい
純正でも低いハンドルに無理があるバイクはワイヤーが切れやすいです。
物理的に、高めのハンドルから低いハンドルに変更した場合、ワイヤーは余り気味になりますね。
ストレスがかからないようにワイヤーの取回しができればいいのですが、
無理やり抑えちゃったりするとワイヤーが内部で擦れて切れやすくなります。
基本的に、純正のワイヤーの取り回しはよく考えられていて無理のない位置に収まっています。
ところが過渡期には、
純正でも無理やり低いハンドルにしたもんだからクラッチワイヤーが良く切れるバイクもあのです。
※GSX1100Sがまさにそれです。
バイクのワイヤーというのはストレスがかかると意外とあっさり切れるのです。
GSX1100Sで頻繁に起こったクラッチワイヤー切れを回避するためにGSX750SⅢでは「油圧クラッチ。」が採用されたりしましたな。
※GSX750SⅠ、SⅡと比べてコストかかってるのよ、GSX750SⅢは。
ゆえに、
たまにワイヤーを単体にして内部の清掃をしたりグリスアップをしたりするのも大事ですし、
ワイヤーの取回しは極力無理がないような配置にしなければなりません。
低いハンドルに変更した場合、この取回しが結構適当で出先でワイヤーがぶちぶち切れる場合があるんですよ。
※ハンドルを低くしたZ1000Mk2の人がクラッチワイヤーが切れて困ってたのを助けたことがあります。
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まとめ
ワタクシはバイクを公道で使う分には適度なハンドルの高さが必要と思います。
個人の好みなので干渉することではありませんがね。
時代は繰り返すんだか流行は再びやってくるだか知りませんが、
現在のバイクのラインナップはパイプハンドルとセパレートハンドルが半々ってところでしょうか。
偏りがなく良い感じですね。
新しいカタナのハンドルの高さはSUZUKIの良心ですよ。
なんだか人気無いらしいですが、これはこれでカッコイイじゃないですか。
なんでもそうですが、一種類しか選べないのはユーザーの選択肢が限られるサービスの低下です。
自然界のように無駄な多様性があっていいんですよ。
たかがハンドルですが色んなシステムが混在してよいのです。
バイクは格好良い方がいいので 違反で起こられない限りは 趣味趣向を貫いても全然いいのです。
格好良さだけに特化させても全然いいのです。
そもそもそういう乗り物ですし、盆栽と言われようがツーリング出来なかろうがそれはそれでいいのです。。
この車種も無駄に低いハンドルついてる個体が多いよね。
ただし、
低いハンドルほどカッコいいとされて、多くの人が一方向に突き進んだ時代はちょっとやっぱりおかしかったようにも思えます。
※使い勝手が悪すぎ。メーカーもその流れに乗っちゃいかんのですよ。
誰が仕掛けているのか知りませんが、流行というのは凄い流れと勢いを持つ怖いものですな。
流行というのは短時間に大勢が一気に熱くなるものですが、冷静になるには一人ずつゆっくりなのです。
※上手く時代に乗って流行を仕掛けると大儲けできますよね。
セパハンブーム&低いハンドルブームは短期間に爆発的に流行って、沈静化して残るべきものが残ったということだと思います。
過渡期には同じ車種でセパハン仕様とパイプハンドル仕様が混在したりして、メーカーも迷ってたっぽいですし。
バンディット400がそれ。カッコいいバイクでたくさん売れたはずですが最近全然見ないのが不思議。
近所のY君が大借金して新車で買った。かっこよくて羨ましかった。
冷静になるきっかけというのは、何かがきっかけになることが多いのです。
そう考えるとセパハン全盛期にパイプアップハンドルで殴り込んで「一回ちょっと冷静になろうよ。」と問題的&新しい提案をバイク業界全体に及ぼした「ゼファー。」はやっぱり偉大だと思うのです。
とはいえ、
完全に消えてなくなる前にレプリカの低いハンドルというものも経験しておきたいものです。
「ああ、ひどいもんだな、こりゃ。」というリアル体験するだけでも価値があると思う。
※あの頃の「恐竜みたいに極端に進化したバイク。」というものが世の中から消え去る前に。