バイクのブレーキ強化の際には、他社流用や有名メーカーのマスターシリンダを使うことがあります。
その際、マスターシリンダーの内径が重要ですよ。
何でも付くには付きますが・・
モノによっては止まらないブレーキになっちゃいます。
当記事の目次
油圧ブレーキシステムはパスカルの法則で成り立ってる
バイクの油圧ブレーキはパスカルの法則抜きには語れません。
「パスカルの法則:密閉された容器の中に満たされた圧縮率の同一な非圧縮性流体の各部にかかる圧力はどこでも等しい。」
偉いねえ、パスカルさん。
アナタが居なければ油圧式ブレーキというものは存在しなかったね。
それにつながった
というものです。
つまり、
バイクや車のブレーキシステムのような、
という密閉されたシステムに応用されています。
たまにはちょっとだけ難しく書きます
入力側の断面積が 10
出力側の断面積が 20
という密閉された液体が詰まったシリンダがあるとします。
■入力側:断面積(A1):10
押す力(F1)を1として、断面積(A1)を押します。
公式:発生圧力(P1)=押す力(F1)/断面積(A1)
押す力(F1) | 1 |
断面積(A1) | 10 |
発生圧力(P) | 0.1 |
発生圧力は0.1となります。
これを出力側の公式に当てはめると・・
■出力側:断面積(A2):20
入力側で発生した発生圧力(P1)は0.1なので、
公式:押す力(F2)=発生圧力(P1)×断面積(A2)
に当てはめると・・
押す力 | 0.1 |
断面積B | 20 |
発生圧力B | 2 |
となって、出力側での発生圧力は2になります。
つまり、
片側の小さい面積に 1 の力を加えると、もう片側の大きい面積に 2 の力がかかるということです。
コレがパスカルの法則です。
※超重要、テストに出ます。
仰々しいのはちょっとねえ・・
ちなみに・・
極端な話、ブレーキシステムはブレーキフルードでなくとも作動します。
※「水」でもブレーキは作動しますよ。
ただし、
ブレーキはすごく熱を発生しますので「水」だと沸騰するんですよ。
そうなると密閉されたブレーキシステム内に気泡が発生します。
これで、パスカルの原理の前提条件「密閉された容器の中に満たされた圧縮率の同一な非圧縮性流体」が崩れます。
「水」と「気泡」では圧縮率が異なりますので、空気が圧縮されて入力された圧力を逃がしちゃうんですよ・・
こうなると、どんなにレバーで力をかけてもブレーキが効かなくなります。
ブレーキフルードでも過度にブレーキを使いすぎると気泡が発生します。
※AT車乗りに非常に多いです。下り坂が続く場合はエンジンブレーキ併用が基本ですよ。
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さらに、
ブレーキフルードは劣化すると吸湿して色が変わります。
水分含むと・・沸騰しやすくなりますね?
なので定期的な交換が必要になるわけです。
ブレーキフルード交換は何台かまとめてやった方が無駄が無くてよろしいです。
応用として、
タイヤの空気圧は「密閉された容器の中に満たされた圧縮率の同一な非圧縮性流体」である「空気」で満たされているので圧力計測が可能なわけです。
パスカルの原理で押す力は数倍にできても押す距離は長くなる
さすがに小さい力をちょっと加えるだけで発生させる圧力だけが倍増するなんて旨い話はありません。
小さい口径で発生させた圧力を大きい口径で出力させるには作動距離が必要になります。
簡単にいうと、
※そりゃ満たされた流体の量が変わらないので当然ですが。
つまり、
大きな力を得る代わりに押し込む距離が増えるということです。
出力される圧力は押した力によります。
ネット上では、
パスカルの原理について圧力の倍力作用と作動距離についてごっちゃになってる情報が多すぎます。
※意外にこの辺を記載してるネット情報が少ないし、難しく書きすぎです。
バイクのマスターシリンダの場合
知ってる人は多くはないですが、バイクのマスターシリンダには口径があります。
これが「パスカルの原理でいうところの入力側の断面積(A1)」です。
※ここにブレーキレバーを通して圧力をかけます。
同じブレーキキャリパーを使う場合、
パスカルの法則に従って、
小さい口径のマスターシリンダはより小さい入力でブレーキキャリパーに制動力を発生させることができます。
ただし、
マスターシリンダの口径が小さいほどレバーストロークが長くなります。
※内部の液体の容積は変わらないので断面積が小さいほど距離で押しだす量を稼いでいるイメージです。
入力側(マスターシリンダ)の口径が小さい場合、
出力側(ブレーキキャリパー)に圧力がかかるまで入力側の作動距離が長くなる
※容量の大きいブレーキキャリパーなら、なおさら距離が必要です。
ということです。
ここまでは良いでしょうか?
ブレーキはマスターシリンダとキャリパーのバランスが大事
マスターシリンダの口径やキャリパーの容量については、バイクのブレーキシステムを流用やカスタマイズする場合は必ず検討しなければなりません。
※ブレーキ効きませんよ、この状態だと。
もっと具体的にいえば、
原付用の小さい口径のマスターシリンダで、
大排気量のスーパースポーツの大きなブレーキキャリパを作動させるには相当なレバーストロークが必要だということです。
※大抵思いっきり握っても押しだす量が足りません。
マスターシリンダの口径の種類
マスターシリンダの入力側の口径はたくさん種類があります。
なぜかメトリック表示とインチ表示が混在しています。
※こういうの、世界的な規格で統一してほしいんですが、誰に言えばいいですか?
マスターシリンダには大抵数字が刻印してあります。
これがマスターシリンダの口径です。
mm表示とin表示が混在しててわかりずらいいんですよ、昔から。
マスターシリンダはバイクの性格やブレーキシステムによって様々な口径がそろえられています。
■代表的な口径と参考車種、参考キャリパ構成を記載します。
マスターシリンダの径 | 参考車種 | 参考キャリパ構成 |
---|---|---|
11mmm | 原付などの小型車 | 片押し1pod |
12mm | 原付などの小型車 | 片押し2pod |
1/2in(12.7mm) | 国産軽量車、オフ車、アメリカン | 片押し2Pod |
14mm | 国産中型以上に多い | 片押し2pot二連装 |
5/8in(15.9mm) | 国産ダブルディスク | 対向2pot、対向4Pot二連装 |
16mm | YAMAHAとDUCATIに多い | 対向4Pod以上二連装 |
11/16in(17.5mm) | スーパースポーツ | 大容量対向4Pot以上二連装 |
19mm | ほぼレーサー、あんまりない | 大容量対向4Pot以上二連装 |
3/4in(19.1mm) | ほぼレーサー、重量車 | 大容量対向4Pot以上二連装 |
傾向として、
レース志向のバイクを除けば中型以上のダブルディスク搭載車は大体14mmか5/8inってところですね。
※レース志向、スポーツ志向が強いモデルほど口径が大きいと思えば間違いないでしょう。
ちなみに・・
最近はスーパースポーツバイクでも大きいキャリパーを使ってても大口径のマスターシリンダを使わない車種もあるようです。
ブレーキシステム全体の剛性やら精度やらコントロール性などをバランスさせた結果だと思います。
ほんとに、サスペンションとブレーキってのは日進月歩ですねえ。
もうほとんどついて行けません♪
そのうち、車のように電気的に加圧するブレーキブースター的なものも出てくるんでしょうか?
そうなると・・
直せる気がしないです♪
パスカルの法則を理解すればブレーキのタッチや効きを変えられる
理屈的にブレーキはマスターシリンダとキャリパー組み合わせ次第でどんなセッティングにもできます。
※ブレーキタッチも効き具合も効き始めもセッティングが可能です。
とはいえ。
ブレーキ関係のパーツは結構いいお値段します。
実際にブレーキシステムを実装して運用してみるまではわからないもの確かです。
※1000kmくらいいろんな条件で走ってみないと分かんないよね・・
ブレーキ関係のカスタム(改造)は金銭的にも知識的にも非常にハードルが高いと言えます。
ちなみに・・
個人的にはブレーキシステムは純正で十分だと思っています。
ただし、
Z1-Rのようにブレーキシステム自体が理解できない設計になってたりするなら話は別です。
それに純正だと全く効かないKDX125SRのブレーキも同様です。
※とっとと改良しないと危なくてツーリングなんかでかけられません。
また、
手が小さいのでレバーアジャスターをつけたい
でも旧車すぎてレバーアジャスターが付かない・・
という場合もマスターシリンダごと他車流用、交換するのはいい手です。
90年代以降のモデルには大抵レバーアジャスタが付いています。
※旧車は一様にレバーが遠いものが多いです。
旧車乗りの悩みが半分解決します。
それ以外にも、
どうしても以前乗ってたバイクのマスターシリンダが使いやすかった
というのもありです。
ブレーキタッチはもろに慣れと好き嫌いがはっきりするこだわりポイントでもあります。
バイクなんか楽しくなければ意味ないです。
ただただ、高価なブレーキ部品を何も考えずにつけるのは意味がないし無駄ですよ。
ブレーキも理詰めで手を入れていきましょう。
カスタマイズ1:初期のブレーキタッチでガツンと効かせる
あんまり過激に効くブレーキって一般道では使いづらい気もします。
神経質すぎるブレーキってロングツーリングで疲れますよ。
でも峠ではちょっとほしい気もします。
これで理論的にはブレーキの初期作動からガツンと効くタッチのブレーキシステムになります。
ちなみに・・
ラジアルポンプ式マスターシリンダーというのがここ20年くらいの間はやっていますね。
簡単にいえば、レバーの入力をまっすぐにマスターシリンダに伝えるようにしたものです。
※テコの原理の支点と作用点を近づけてレバーストロークを少なくしようとしたもの、と理解していいでしょう。
ラジアルポンプ式のマスターシリンダは入力側の口径を大きくしてストローク量を少なくするスポーツタイプのバイクに使われています。
入力側の口径が大きいことにより、大きいブレーキキャリパーを装備できるというメリットもあります。
ワタクシが初めてこの「ラヂアルポンプテクノロヂ」を体験したのは先輩のDUCATI ST4Sでした。
ブレーキタッチの鋭さとかいうよりも車体に慣れるのが精いっぱいでよく覚えてないんですよねえ・・
※DUCATIはアクセル開けた時の吹っ飛ばされる加速イメージが強烈です。
ラジアルポンプ式マスターシリンダは特性上あんまり小口径なものがなく16㎜くらいが最小なハズです。
※それ以上小さいの見たことないです。
ラジアル式マスターシリンダは大きめのキャリパー向けの装備と言えます。
カスタマイズ2:ブレーキレバーに呼応してじんわり効かせる
握りゴケしないようなブレーキタッチにもできます。
いざというときにブレーキは効かないと怖いんですが初心者にはガツンと効くブレーキより扱いやすいはずです。
これで理論的にはブレーキを握りこんでいくと、その分微妙に効いていく遊びの多めなタッチのブレーキシステムになります。
ただ、極端にマスターシリンダの口径を小さくしすぎるとブレーキ自体が全く効かないということにもなりかねません。
※思いっきり握り切れるまでレバーを握ってもキャリパー自体が動かない・・です。
ちなみに・・
80年代中盤のレプリカブームの際、YAMAHAのTZR250とFZR250ではブレーキタッチが異なる味付けをされていました。
これは各々のユーザー層が、どういう使い方をするのか?
を考えた上のセッティングと思われます。
YAMAHA、やるなぁ♪
と、まだ若造だったワタクシが妙に感心したもんです。
参考:当倶楽部のZ1-RとZ750D1のブレーキ構成
あくまでも、「のりもの倶楽部メカ大臣」のワタクシの好みですので一般的な組合わせとは言えません。
■Z1-R
マスターシリンダー径 | キャリパー | 備考 |
---|---|---|
5/8in(15.9mm) | PM製 125×4R(対向4Pot)キャリパー 2連装 | KAWASAKI系のキャリパー(GPZ?) |
純正と違いすぎて参考になりませんね・・
ホースはGOODRIDGEのメッシュホースです。
中継ジョイントは省略しています。
この組み合わせでは、多少握り代が長いです。
その場その場でレバーをアジャスターで微調整しています。
もう少しマスターシリンダの口径を大きくしてもいいかな?とは思います。
※でもいいや、面倒くさいし、お金ないし。
■Z750D1
マスターシリンダー径 | キャリパー | 備考 |
---|---|---|
14mm | 純正片押し1Potキャリパー 2連装 | CB400SF流用 |
ホースはGOODRIDGEのメッシュホースです。
中継ジョイントは省略しています。
この組み合わせでは、キャリパーの容量が少ないため、Z1-Rより握り代が短いです。
こちらもレバーアジャスターをつけています。
主に嫁が運用しています。
状況ごとにアジャストしてるのか?
よくわかりません。
多分、全く調整してないと思います♪
ちなみに・・
ブレーキ関係の改造というかカスタムしてても車検は通ります。
純正流用でよほど変な取り付け方をしていなければ車検でお咎めを受けることはありません。
今まで一度もブレーキ関係で落ちたことないです。
※仰々しいキャリパーサポートついてても、です。
純正であればブレーキランプのスイッチのも流用できます。
これを自分のバイクに合うように加工すればOKです。
純正でもBremboとかついてる外車の場合は・・大変かもしれません。
※油圧式スイッチってのもありますが大抵壊れやすいです。
まとめ
バイクのブレーキを変更しようとするとは・・
よほどの馬鹿かお金持ちです。
もしくは、純正で変なブレーキがついてるKAWASAKIのバイク乗りですか?
よほど自分好みにしようと思わない限り、純正で十分です。
とはいえ。
結構ブレーキは部品変えると目立つので、高価な部品に変更してる人多いですね。
どんな改造でもそうですが、素人や街のショップレベルでは純正の完成度は越えられませんよ。
※基本設計が、ダメダメなバイクってのは実際にあるのでその場合は容易に純正レベルを超えられます♪
純正のブレーキキャリパーはマジで命の危険を感じるくらい効きません。
純正でも十分完成度が高いブレーキシステムをお金をかけてまで変更に臨む場合、
ちゃんと理屈で説明できないと「ただのお金持ちの自慢」にしかなりません。
※そういうことをやるおっさんライダーが多いので「おっさんライダーダサい」って言われちゃうんですよ。
今回はブレーキのマスターシリンダについて少し書いてみました。
絵とか書ければもう少しうまく説明できる気もします。
※画像ツールって苦手なんですがそのうち作画して追記するかもしれません。
苦手とか言ってる場合じゃないんですが、暇がないのですよ。
ワタクシだって時間かければ、ブレーキの絵位かけ・・るような気がします。